無駄に胸をざわめかせ〜
       (中略)
         〜それこそが恋

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背にした村は遠く踏みしめる土は固い。

茫々と丈が長い枯れ草ばかりが目に入る。

人が行きかう道ではないというのに固いのは地面が凍りついているのだろう。

案内に遣された攘夷の者3名を先頭に20人余が隊を組み歩いている。息さえ

沈めてカサカサと乾いた葉音が足音と共にするだけだ。

「うー。寒みィ」

静けさを破る声がする。銀時だ。認識すると同時に視界の大半が銀時で埋まる。

いつの間にか傍らから顔を突き出している。なにごとかと窺うとその顔がニコッと

笑いかけてきた。

「寒みくね?」

この行軍だ。辛いほどではないが速度は速い。背に荷物もある。寒さは感じない。

答えようとする間も無く。

「なァなァ、どうして髪の毛切っちまったんだよォ、ヅラぁ」

銀時は酷く不服そうに唇を尖らせて問いを重ねた。

「ヅラじゃない、桂だ」

言いながら肩口にある髪を払う。手は軽く、すり抜けた。違和感がある。そういえば

自分の髪はいつも長かった。



(〜略〜)



「なんで髪の毛、切っちまったんだよヅラぁ」

「ヅラじゃない、桂だ。と言うか」

本当に銀時は体力が余っているのではないか? と呆れた表情で桂は銀時を見る。

銀時は小首を傾(かし)げてぽかんとしていた。

「なんだその顔は?」

想定していなかった銀時の表情に面食らう。

「なんで切っちまったんだよォ」

銀時は見る間に落胆していく。その表情と泣き出しそうな声に驚く。

「大した意味はない」

自分の長い髪。ずっと伸ばし続けていた。いつか。そう、さほど遠くない未来(さき)に

結い上げると信じていた。国を失った。今はそれも無い。自分の容姿は目立つ。長い

髪が知られている。隠すつもりは無いが無闇に出自は知られたくない。隊へ入るのだ

とすれば手間をかけるのも面倒だ。だから名跡を(みょうせき)継いだこともあり出立の

前日に切った。

「なにもこんな時に切らなくてもいいのに」

「銀時、お前しつこいぞ」

「だってずっとずっと長かったじゃん。黒くて真直ぐで長いのにもったいねー、イキナリ

切るなんてサ。なんか…」

息を詰めて口をへの字に曲げて見つめてくる。銀時は不吉な連想をしているのかも

しれない。素の首を晒す連想。すなわち斬首の。

銀時の不安気で悲しげな瞳。自分を思いやるその顔につい見入る。自分の足が止まり、

それと同時に銀時の足も止まる。視界の端に荷を背負った高杉が振り向いて銀時を見る

のが分った。

「失恋かな」

口をついて出た。

「は?」

拍子抜けしたのだろう。銀時は分らぬ顔で立ちすくむ。

「失恋をしたら髪を切るのだろう? 俺は失恋したのだ。だから髪は切った」

「なんの…話?」

銀時は、にわかに意味がつかめない。

「おまえ達の読んでいるジャンプ。それにそんな話があったではないか」

「…あ? そーいやそんなのあった」

合点したらしい銀時が頷く。

毎週火曜日に届けられるジャンプ。その中で可憐な女学生が失恋したのだと長い髪を

バッサリ切り落としていた。

「ってか。ヅラ失恋した?」

いつのまに、と口の中で銀時は言う。

「長々くっちゃ喋ってると体力削るぜ、銀時ィ」

高杉が腕を伸ばして銀時の手を引く。そのまま引っ張られながら顔だけこちらへ残して

銀時は問いかける。





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