悪戯を仕掛けてみたら結構おもしろい<下巻>(完結編)

                                       (試し読み) 




「なァ銀時。お前、自分がどんだけ奇跡的な確率で存在してっか

分かってるか?」

銀時の顔を覗きこむ。

「お前がここに生きて在(あ)ること、それ自体が親父とお袋の尽

きない愛情の上にしか成り立たねぇと、どうして思えねぇ?」

「…そんなこと教わったことねぇもん」

ぽつりと、答える。

「俺は、アレだから。血がどうのだから。アレしなさい、我慢しな

さいって。そればっかだもん」

「お前は松陽に育てられたからなァ」

高杉は合点する。

「だったらよォ、俺に訊け? 自分に迷ったら、親に疑いを持った

ら俺んトコ来て話せ。気が済むまで本音吐きゃいい。そうすりゃ

スッキリすんだろ」

「…なんで?」

銀時の、求める瞳。

「なんでお前、そんなことまでしてくれんの?」

高杉の言っているのは、松陽がおよそ歓迎しない行為。

不満の吐き出しは危険を孕む(はら)。銀時(じぶん)にそんなことを

したって高杉にはなんの得もないのに。

「…なんでかな」

高杉は笑みを、とめる。

「自分でも分からねぇ。ただ、俺りゃ、お前がイイ。お前が笑って、

楽しそうにして、好きなことやってりゃ、それでいいと思うのさ」

「高杉ィ…」

つらそうに相手を見る。

「お前、きっと長生きしねぇ。そんなんじゃ世の中渡ってけねぇよ」

「いいんだよ。命なんざ、いくらでもくれてやらぁ」

真顔で告げる。

「それでお前が自分らしく生きられるんなら俺りゃ満足だ」

「俺にそんな価値ねぇから」

咎め(とが)るように睨む。

「命とかいらねぇ。お前の人生、お前が責任もって全う(まっと)しろ」

「俺りゃ誰のためにも生きねぇ。自分のためにも生きねぇ。俺が

自分で決めたことのために命と時間を使うだけだ」

「ダメだってそういうの」

ムッと銀時は高杉の前に進み出る。

「それ屁理屈じゃん。迷惑だっつってんだよ」

「怖いか?」

見透かされる。

「誰を怖がってるんだ。よく考えてみろ。俺か。松陽か」

「こ、怖くなんかねぇ」

眉を寄せる。

「お前は無茶だ。なんでそこまで一方的なんだ。俺たちはすん

なり死なせてもらえるわけねーだろ、なのになんでお前はそんな…」

言い負かそうと論拠を探し回るうち行き当たった。自分の心。

「…なんで?」

見つけた、偽りない気持ち。

「なんで俺なんかのために、何かしようと思うんだよ。そんな価

値ねぇんだよ。俺、なにもできねぇし。悲しませるし。刃向かえ

ねぇし。自分で逃げらんないの、もうヤなんだよ」

高杉を見る。

「お前まで絶望させちまったら、どうしたらいいか分かんねぇよ」

「絶望しねぇよ」

高杉が答える。

「俺りゃ、これでも血は濃い方だ。お前と共謀してウサ晴らしの

片棒かつぐくらい、楽勝だぜ」






『大丈夫か?』

すぐそばでトントン、と格子を叩く音がした。桂だった。格子の隙

間から互いが見える。二人とも縄も猿轡も解かれず、後ろ手に

縛り上げられたまま牢に入れられていた。意志の疎通は身振り

によるしかなかったが、桂とならそれで十分だった。

『ヅラもヤラれたのか?』

『ヅラじゃない桂だ』

思いっきり睨まれる。

『どうやら狙いはお前のようだな。俺には別件で用事があるらしい』

『えー俺だけェ?ズリィ!』

『アレは何だ。天人か』

桂は視線を下げる。

『あんなもの聞いたことがない。先生の教えにないものなど、ある

とは思えんが』

その表情がもの言いたげに銀時を見る。

『ひとくち味見、で終わる相手ではなさそうだ』

『いや終わるね。ひとくちで魂もってかれるね』

『呑気なこと言ってる場合か。なんとかこの場を乗り切って生還し

なければならんのだぞ』

『誰が呑気?いたって真面目だろーが。おまっ、吸われんのは俺

なんだよ?見てるだけの奴に言われたくねーッ』

『しかし。あれは斬れるのか?』

桂が銀時を窺う。

『ただの黒い…靄の(もや)ように見えたが。触った感じ、実体はあ

ったのか?』

『靄?(もや)』

銀時が聞き返す。

『アレってそんな奴だったの』




                                …………続く


単独で読めそうでネタバレなさそうなところだけ抜き出してみましたが、
あまり意味が通じなかったですね。(汗)

おかげさまで下巻は完売いたしました。ありがとうございました。