銀時ィィィ おまえ牛乳のめないんだってなぁ なんかトラウマでも持ってんじゃねーの



桜の花がそろそろ終わる。

松陽の塾近く堀の土手にたくさん桜が植えられていた。

散り際の桜を見物客が赤い毛氈(もうせん)ひいて宴に興じていた。

横目で見ながら桂は塾への道を急ぐ。


「銀時!」

松陽先生の私邸、といってもこじんまりした質素なものに過ぎない。

そこの一室、銀時が暮らしている部屋を縁側に膝をつき開けた。


「?」

いつも寝そべっている場所に主がいない。桂は部屋を後にし、塾へ向かう。

「銀時を知らないか?」

今日は塾が休みだ。

しかし塾生の大半が親元を離れ学んでいる関係で休みでも大抵人がいる。

松陽の塾は選抜された子供が通う。

藩主も唸らせた才気のある松陽を師事(しじ)した誇りが塾生にはある。

「銀髪のヤツだろ?」

銀時はその松陽先生に育てられた。

松陽と縁者では無く貰い子であることを周囲も本人も知っていた。

不思議な銀色の髪は柔らかく巻いていた。

みな一様に奇異に感じてはいたが松陽の手前、表立って疑問を投げ掛ける者は無かった。

「なんかあっちの方で何人かと遊んでたゼ?」

「ありがとう」

指差された方角へ行ってみる。

簡単な庭園のしつらえられた場所。

塾生が2人、庭石と池の間をうろうろしている。


「銀時は?」

桂が声を掛ける。

「見つからない」

困った顔で塾生の磯村が応える。

「さっきからロストしちゃってやばい所」


言いながら磯村は辺りを伺う。


「隠れんぼをしているのか?」


「いや。そうじゃないんだけど」


つられて桂も周囲を見渡す。ヒトの気配が無い。


「じゃあ、磯村はなにやってるんだ?」


「俺? 俺は旗本」


回答を聞いてもなんの遊びか推測できない。

桂が帰省している間にまた、訳のわからない遊びが開発されたようだ。


「銀時!」


探していても埒が明きそうにない。桂は大声で呼ばわる。


「銀時っ、いないか!? 土産を持ってきた!」


「土産ッ!」


間髪入れず返事が返る。すぐそばの茂みがガサッと音を立て銀時が出てくる。


「そんな所にいやがった。くそー」


磯村が驚いている。それには目もくれず銀時は両手を桂に差し出す。


「土産くれ」


「ナニをしていたんだ、おまえは?」


「俺? あー、俺はお庭番衆筆頭がしら」


考えるに2手に別れて侍vs忍者ごっこをしていたらしい。


「里帰りしてたんじゃないの? いつ戻ったのさ」


「今し方だ。一番に渡そうと思ってな。これがその土産だ」


袂から箱を取り出して渡す。


「なにこれ?」


「帰郷した折にじいやが髪染めを使っていたので貰ってきた」


銀時は髪を恥じていた。

物心ついてからなんとかその髪を普通の直毛に、せめて黒髪にしたいと願って一人努力していたのを桂は知っていた。


「使ってみたらどうだ?」


「おぉ! サンキュー。でもどうやって使うんだ?」


「湯に溶いて髪をつけるらしい」


「そっかー。早速やってみる」


嬉しそうに手の内の箱を銀時は眺める。


「悪りィみんな。俺抜けるな!」


「待て! 銀時。おまえが抜けたらお庭番チームどうするんだよ!!」


慌てて磯村が叫ぶ。


「てきとーにやってて!」


浮かれた調子で湯を調達しに銀時は走ってゆく。


「ヤバいよ。お庭番仕切ってたの銀時なのに」


途方に暮れた顔で磯村がぼやく。


「すまない磯村。ならば俺が銀時の代わりを努めよう」


生真面目な顔で桂は銀時がいた茂みにズボッと身を隠す。


「あ、おい。いいっ、いいって!」


磯村は慌てて桂の隠れ切れていない襟首を掴む。


「おまえが忍者はマズいよ。俺のやってる旗本を譲るから。旗本やってくれ」


「別にいい」


ふっ、と桂は笑う。


「俺も少し侍に飽きていた所だ。実家に帰ったばかりでな」


「ヅラぁ…。余計な真似すンなよ」


高杉が松の枝から飛び下りてやってくる。


「ヅラじゃない。御庭番衆筆頭前(おにわばんしゅうひっとうまえ)がしらだ」


せっかく隠れていたのに桂は無造作に立ち上がる。それに『御庭番衆筆頭』だけでいいのに余計なのが増えている。


「ゲーム壊しやがって。つまんねーだろ」


気にもせずひらひらと高杉は後に手を振る。


「ヅラが頭じゃヤれねェな。俺も抜ける」


言って振り返りもせずに銀時の走り去った方角へ歩いて行ってしまう。


「高杉」


背中に桂が声を掛ける。

続きは同人誌