銀時ィィィ おまえ牛乳のめないんだってなぁ〜以下略

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「いらっしゃいませ」

妙と新八が玄関で出迎える。二人は丁寧に頭を下げた。

「夜分(やぶん)に邪魔するの」

案内されるまま屋敷の中へ入る。

さすがに今夜は近藤も個人的に妙に不埒(ふらち)な振る舞いをするわけに行かない。

大人しく大座敷の卓に着いた。

土方、陸奥も同席である。もう一人ずついる隊士と快援隊の用心棒は屋敷の外で目を光らせていた。


「どうぞ」

妙から茶が出される。

「銀時はどうしとぉ?」


坂本はキョロキョロと座敷を見回す。坂本は銀時に会いに出向いた。だがその肝心な銀時がいない。


「いま休んでるアル」


襖を開けて神楽が座敷に入ってきた。


「久しぶりに銀ちゃん寝てたヨ。私、起こしたくないネ…」


沈んだ声で言い、縋るように坂本を見る。坂本は神楽に向かって手を振る。


「良か良か」


湯飲みを持ってグッと茶を飲み干す。


「あっ熱っいィィィ」


坂本は叫ぶ。あーあ、と坂本を眺める。妙の出す茶は煮え湯だ。だから皆、すぐに飲むことはない。


「しばらく待たせてもらっても良かか?」


口を真っ赤にしながら坂本が尋ねる。


「構いませんよ」


涼(すず)やかな笑顔を妙は浮かべる。


「坂本さん」


思いつめた声で新八が口を開いた。


「最近の銀さん、変なんです」


「そりゃあんなことがあった後だ。おかしくないほうがどうかしてんだろ」


土方はタバコに火をつけながら吐き捨てる。事件を口に出されると胸糞悪い景色が目に浮かんでどうしようもない。


「や、あの。そうじゃなくて」


メガネを持ち上げて新八は困った顔になる。


「もしかしたら、坂本さんも銀さんに会ったら驚くかもしれないんで」


「なんじゃあ? あの髪がストレートにでもなったがか?」


素っ頓狂に坂本は叫ぶ。


「銀時はさぞかし喜んじょるじゃろ。めでたいのぉ。良(よ)かこつが一つでもあったきに。酒じゃ酒」


パンパン坂本は手を叩く。


「…いや。そうじゃなくて」


はぁ、と新八はため息をつく。


「違いますよ。ある意味近いんですけど」


「近い、だと?」


土方はタバコを吹き出しそうになる。ストレートさらさらヘアの銀時。想像して脳が拒否した。


「銀さんの髪が銀色なんですよ」


重く新八が言う。


「あいつは元々銀髪じゃねぇか」


何をくだらない。横を向いて煙を吐く。


「いやトシ。旦那は白髪だ」


あ? と近藤に向けるのと同時に新八は言葉を続けた。


「そうなんですよ。銀さんの髪はこう…なんていうか人によって銀髪にも白髪にも見える髪をしてました。

でも今は誰が見ても銀色…っていうか鋼み(はがね)たい。細い金属の束みたいな感じで」


「なにか悪いものでも食べたんじゃないのか?」


近藤が真面目に答える。


「嫌ですよ。家(うち)でおかしな物を食べさせたっていうんですか?」


怒鳴らない、蹴らない代わりに妙は近藤の太ももを思いっきりつねる。


「アウチっ!」


近藤も抑えて叫ぶ。二人とも客の坂本の前で遠慮しているようだ。


「ワシにゃそっちのほうが普通じゃ」


「え?」


「ワシの知っちょる銀時はその名の通り銀色の髪をなびかせておった」


空になった湯飲みを手の中に収(おさ)めて坂本は中空を眺める。


「江戸にアイツを見に行った時は魂消(たまげ)たものよ。ワシの知っとる銀時と違ってな。

白銀の目と髪をしとった銀時がやけにくすんでおった」


「見に行った?」


思わず聞き返す。


「坂本さん。確か銀さんに久しぶりに会ったのは占拠された宇宙観光船で、偶然だって言ってませんでしたっけ?」


「あー…いや」


「頭(かしら)、今更黙っといても仕方なかろう。白状せんか」


ぼそりと陸奥が促す。


「そうじゃな。今更かもしれん。許せよ。ありゃワシが仕組んだコトじゃ」


許せといいながら悪びれずサングラスの下の唇が笑う。


「そんなの無理ネ。あの船に乗ったのは私が町内会の福引を引き当てたからよ」


「すまんのォ。細工させてもらったわ」


「そんなッ、町内のガラガラですよ? 一体どうやれば細工なんて出来るんですか」


ずり下げたサングラスから悪戯っぽい目が覗く。

続く